防災を学ぶ25の記事
知ることから、備えを一歩ずつ。
避難の判断、日頃の備え、周囲への声かけ、火災や救命の基礎まで。家庭・職場・地域で役立つ防災の知識を、25本の記事で紹介します。
目次から気になる記事へ移動できます。このページで全25本の全文をお読みいただけます。
ARTICLE 01
「自分は大丈夫」が逃げ遅れを招く? 正常性バイアスと防災
大雨のニュースを見ても、「この地域は今まで大丈夫だった」「まだ周りの人も避難していない」と考えたことはありませんか。危険が迫っていても、普段と同じ生活が続くと思い込み、行動を先延ばしにすることがあります。防災で知っておきたい心理の一つが「正常性バイアス」です。
正常性バイアスとは、異常な出来事に直面した際、その危険を小さく見積もってしまう心の働きです。不安を抑える方向に判断が偏るため、避難情報を聞いても、自分に関係する情報として受け止められない場合があります。知識がある人でも、災害の当事者になれば影響を受ける可能性があります。
講習用テキストでも、こうした心理を理解することが、迅速な避難や避難誘導につながると説明されています。内閣府の防災教育に関する提言でも、地域の災害リスクとともに正常性バイアスを学び、実践的な教育や訓練を行う必要性が示されています。
対策として役立つのは、危険が迫ってから判断を始めるのではなく、平時に行動の条件を決めておくことです。「避難に時間がかかる家族がいるので、高齢者等避難が出たら出発する」「自宅周辺の危険度が高まったら、安全な親戚宅へ移動する」など、自分の生活に合わせて具体化します。
ただし、決めた条件がそろうまで待ち続けてはいけません。災害の進み方は毎回異なります。予定より早く雨が強まったり、避難経路の安全に不安が生じたりした場合は、計画を前倒しする判断も必要です。過去に被害がなかった経験は、今回も安全であることの証明にはなりません。
周囲への声かけも大切です。「危ないですよ」だけでなく、「この場所には浸水のおそれがあります。今のうちに一緒に移動しましょう」と、危険と行動を結び付けて伝えます。施設では、災害の種類、避難方向、使えない経路を短く案内すると、利用者が動きやすくなります。
訓練では、避難の手順だけでなく、自分が迷いそうな理由も考えてみましょう。荷物が気になる、仕事を中断しにくい、近所の様子を見てから決めたい。その迷いを家族や同僚と共有し、先に対策を決めておけば、実際の災害時に判断する負担を減らせます。
「自分も避難をためらうかもしれない」と認めることは、備えを具体的にするきっかけになります。今日、家族と一つだけ避難開始の条件を決め、見える場所に書いておきましょう。
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ARTICLE 02
避難はいつ始める? 警戒レベルと避難情報の読み解き方
大雨や台風が近づくと、警報や避難情報が次々と発表されます。名称を知っていても、自分がいつ行動すべきか分からなければ、避難が遅れるおそれがあります。内閣府が示す5段階の警戒レベルは、災害の危険度と、住民が取るべき行動を結び付けて理解するための目安です。
警戒レベル1では、災害への心構えを高めます。早期注意情報などを確認し、今後の天気に注意しましょう。レベル2は、自分の避難行動を確認する段階です。「レベル2大雨注意報」などが出たら、ハザードマップで自宅の危険性を調べ、避難先や経路、家族の連絡方法を確認します。
警戒レベル3「高齢者等避難」は、危険な場所にいる、避難に時間がかかる人が避難する段階です。高齢者や障害のある人だけでなく、妊産婦、乳幼児連れの人などと、その支援者も含まれます。それ以外の人も、準備を進め、必要に応じて自主的に避難します。
警戒レベル4「避難指示」では、危険な場所から全員が避難します。避難勧告はすでに廃止されており、さらに強い指示を待つ段階ではありません。安全な場所にいる人まで避難場所へ移動する必要はなく、事前に条件を確認した屋内安全確保も選択肢になります。これらの行動は、内閣府の警戒レベルの案内で確認できます。
警戒レベル5「緊急安全確保」は、災害が発生、または切迫し、命の危険がある状況です。通常の避難先へ安全に移動できない場合があり、その場で少しでも危険を減らす行動が必要になります。この情報は必ず発令されるものではありません。レベル5を待たず、レベル4までに危険な場所から避難することが重要です。
2026年の見直しでは、河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮の防災気象情報にも、警戒レベルに対応する数字が付くよう整理されました。例えば「レベル4氾濫危険警報」「レベル4大雨危険警報」「レベル4土砂災害危険警報」「レベル4高潮危険警報」は、警戒レベル4相当の危険を伝えます。
ただし、これらの警報と、市町村が発令する避難指示は別の情報です。同じレベルの情報が同時に出るとは限りません。市町村の発令前でも、自分のいる場所の危険が高まっていれば、気象情報やキキクルなどを参考に避難を判断します。
警戒レベルが順番に上がるとも限りません。また、突発的に発生する津波には、この5段階の警戒レベルを付けません。情報を待つだけでなく、地域の災害リスクと家族の移動時間を踏まえ、早めに行動できる準備をしておきましょう。
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ARTICLE 03
ハザードマップを見て終わりにしないための確認ポイント
ハザードマップは、自宅や職場でどのような災害が想定されるかを知るための資料です。しかし、地図を開いて「家には色が付いている」「避難所は近くにある」と確認するだけでは、実際の避難には結び付きません。地図から得た情報を、行き先や行動の計画に変えることが大切です。
最初に確認するのは、対象となる災害の種類です。洪水、内水氾濫、土砂災害、高潮、津波では、危険が生じる場所も避難の考え方も異なります。一枚の地図だけで、地域にあるすべての危険を把握できるとは限りません。自治体が公開している地図や説明資料を、災害ごとに確認しましょう。
洪水の地図では、浸水の深さだけでなく、浸水が続く時間や、建物の倒壊などが想定される区域にも注目します。自宅の上階が水に浸からなくても、長く孤立する可能性があれば、食料、トイレ、医療などの問題が生じます。建物の条件と、そこで暮らす人の事情を合わせて考える必要があります。
次に、自宅だけでなく、避難先までの道を確認します。途中に川沿いの道路、低い土地、斜面の近く、地下道などはないでしょうか。目的地が安全でも、経路に危険があれば到着できません。通れなくなった場合に備え、別の経路や別の避難先も考えておきます。
国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、複数の災害リスクを重ねて確認できます。ただし、「重ねるハザードマップ」に避難に必要な情報がすべて含まれているわけではありません。避難先の位置や開設に関する情報などは、市町村の最新の資料で確かめましょう。
地図に色が付いていない場所についても、必ず安全とは判断できません。想定条件や掲載データには範囲があり、区域外でも災害が起こる可能性があります。自宅周辺の地形や、過去の被害、自治体からの説明なども参考にします。不明な点は自治体の防災担当窓口に相談しましょう。
平時には、家族で実際に経路を歩いてみると、地図では分からなかった段差や道幅、暗さに気付けます。子どもや高齢者と一緒に移動する場合は、その人の速さで所要時間を確認してください。雨が降り始めてから現地を調べに行くことは避けます。
確認した避難先と経路は、紙にも残しておきましょう。停電や通信障害でスマートフォンが使えなくなることも想定し、家族で共有しておきます。引っ越しや家族の状況の変化に合わせて見直せば、ハザードマップを日々の備えに生かせます。
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ARTICLE 04
「避難場所」と「避難所」はどう違う? 災害に合った避難先の選び方
「災害が起きたら近くの学校へ行く」と決めていても、その学校が今回の災害に対応した避難先なのか、確認したことはありますか。防災で使われる「避難場所」と「避難所」は、目的が異なります。名称だけでなく、その施設がどの災害に対応しているかを知っておく必要があります。
指定緊急避難場所は、津波や洪水などの危険から命を守るため、緊急に避難する施設や場所です。一方、指定避難所は、災害の危険がなくなるまで滞在したり、被災して自宅へ戻れない人が一時的に生活したりするための施設です。避難する段階と、避難生活を送る段階で役割が異なります。
同じ施設が両方に指定される場合もあります。しかし、指定避難所だからといって、すべての災害から安全に逃げ込めるとは限りません。指定緊急避難場所は、災害の種類ごとに指定されます。地震に対応していても、洪水や津波には対応していない場所があり得ます。
確認するときは、市町村の避難場所一覧やハザードマップを見て、洪水、土砂災害、津波などの対応状況を調べましょう。現地の案内板にも、対象となる災害を示す図記号が使われています。家族で散歩する際などに、案内板を見ながら意味を確かめておくと役立ちます。
避難先までの距離も判断材料です。ただし、近さだけで決めることはできません。低い場所を通る、川を渡る、斜面沿いを歩くなど、経路に危険がある場合は、早めの出発や別の経路を検討します。高齢者や乳幼児と移動する家庭では、到着に必要な時間を余裕を持って見積もりましょう。
風水害で十分な時間がある場合、安全な場所にある親戚や知人の家などへ避難する方法も考えられます。その家の災害リスクや受け入れの可否を、前もって確認してください。誰かの家という理由だけで安全性が保証されるわけではありません。
施設の防災担当者は、館外へ出した後の行き先まで計画しておくことが大切です。利用者が出口付近に集まったままでは、消防活動や後続の避難を妨げる可能性があります。災害に対応した集合場所、そこまでの誘導方法、人数の確認方法を事前に整理します。
家族や職場の避難計画には、施設名だけでなく「洪水のとき」「津波のとき」と災害別の行き先を記しておきましょう。普段よく使う場所であっても、災害時の役割を確認することで、いざというときに目的に合った避難先を選びやすくなります。
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ARTICLE 05
避難とは「外へ出ること」だけ? 自宅にとどまれる条件を知る
避難という言葉から、学校や公民館へ移動する姿を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、避難は災害の危険から安全を確保する行動です。風水害では、自宅の条件を確認したうえで上階へ移動したり、安全な階にとどまったりする「屋内安全確保」も選択肢になります。
ただし、自宅に残る判断には条件があります。洪水の場合、建物が流失・倒壊するおそれがある区域に入っていないこと、想定される浸水深より高い場所で過ごせること、浸水が続く期間に必要な生活上の備えがあることなどを確認します。階数が高いという一点だけでは決められません。
例えば、寝室が2階にある家庭でも、想定される浸水が2階に達するなら、その場所では安全を確保できません。水が届かなくても、長期間孤立する可能性があり、飲み水やトイレ、薬が足りなくなるなら、早い段階で別の安全な場所へ移動することを考える必要があります。
建物の構造や状態も関係します。家屋倒壊等氾濫想定区域の中では、流れや地盤の侵食などによって建物が被害を受けるおそれがあります。地図の読み方や、自宅の条件が判断しにくい場合は、平時に自治体へ相談してください。災害が迫ってから情報を集め始めると、判断の時間を失います。
また、洪水での屋内安全確保の考え方を、そのまま土砂災害や津波に当てはめてはいけません。斜面の近くや津波浸水想定区域では、建物ごと大きな被害を受ける可能性があります。対象となる災害に応じた避難先と方法を、別々に確認することが大切です。
事前に計画して行う屋内安全確保と、すでに移動が危険になった段階で取る「緊急安全確保」も区別しましょう。浸水した道路などを無理に歩くより、近くの建物の高い場所へ移る方が危険を減らせる場合がありますが、それは切迫した状況での対応であり、安全が保証される方法ではありません。
屋内安全確保を予定する家庭では、上階にも水、食品、携帯トイレ、照明、必要な薬などを用意しておきます。普段は下の階に置いている物を、浸水が迫ってから運ぶ計画では間に合わないことがあります。階段を自力で上れない家族がいる場合は、その点も含めて計画を見直してください。
自宅にとどまれるかどうかは、建物、地域の危険、生活の継続、家族の事情を合わせて判断します。避難先へ移動する計画とともに、自宅で安全を確保できる条件も確認しておけば、状況に応じた行動を選びやすくなります。
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ARTICLE 06
家族の避難を迷わないために——マイ・タイムラインの作り方
台風が近づいたとき、天気予報を確認し、持ち出す物を用意し、家族に連絡してから避難する。この一連の行動を、その場で考えるのは大変です。大雨や洪水に備えて「いつ、何をするか」を整理する方法が、マイ・タイムラインです。
国土交通省は、マイ・タイムラインを住民一人ひとりの防災行動計画として紹介しています。台風の接近などによって危険が高まる過程を想定し、自分や家族が取る行動を時間順に考えます。書式を埋めることだけが目的ではなく、避難に必要な準備や課題を見つけることが大切です。
作成の最初の段階では、ハザードマップで自宅の水害リスクを確認します。どれくらい浸水する可能性があるか、長く孤立するおそれがあるか、安全な避難先はどこかを調べましょう。そのうえで、家族の年齢、移動手段、薬や医療機器の必要性など、家庭の事情を書き出します。
次に、準備を早くできる順に並べます。数日前から台風の影響が見込まれる場合は、天気の見通しを確認し、家族の予定を調整します。危険が高まる前に持出品を点検し、避難先の受け入れや経路を確認します。避難に時間がかかる人がいる家庭では、その人の準備を先に進めておきます。
行動の担当者も決めましょう。「誰かが連絡する」では、全員が別の人に任せてしまうことがあります。「母が避難先へ連絡する」「父が子どもの持出品を確認する」といった形にすると、行動が具体的になります。担当者が不在の場合の代役も考えておくと安心です。
避難を始める条件は、警戒レベルや気象情報を参考にしながら、移動に必要な時間を踏まえて決めます。出発してから目的地に着くまでだけでなく、着替えや介助、家族への連絡にも時間がかかります。夜間や悪天候では移動が難しくなるため、早めに出発する選択も計画に入れましょう。
マイ・タイムラインは、災害の進行を正確に予測する時刻表ではありません。雨の強まり方や情報の発表順序は、想定と異なる場合があります。計画より危険が早く高まれば、行動を前倒しします。「予定の時刻ではないから待つ」という使い方は避けてください。
作成後は、家族で読んで、実際に避難経路を歩いてみましょう。移動に予想以上の時間がかかる、荷物が重いといった発見を計画に反映します。家族構成や生活時間が変わったときにも見直せば、自分たちの暮らしに合った避難計画として使い続けられます。
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ARTICLE 07
緊急地震速報が鳴ったら? 場所別に考える最初の行動
スマートフォンから緊急地震速報の音が鳴ると、画面を見たり、外へ出ようとしたりするかもしれません。しかし、強い揺れが来るまでの時間はわずかな場合があります。気象庁が示す基本は、周囲の状況に応じて、慌てず、まず身の安全を確保することです。
自宅では、倒れそうな家具や落下しそうな物から離れ、頭を守ります。近くに丈夫な机があれば、その下などで身を守ります。慌てて階段を駆け下りたり、外へ飛び出したりすると、転倒や落下物によるけがにつながるおそれがあります。揺れている間は、無理に移動しないことが大切です。
調理中でも、強い揺れの中で火を消すために危険な場所へ近づかないようにします。まず自分の安全を確保し、揺れが収まってから、状況を見て火元を確認します。「地震が起きたら何より先に火を消す」と一律に覚えるのではなく、その時点で安全に行動できるかを考えましょう。
職場や商業施設では、窓ガラス、陳列棚、照明などから離れて頭を守ります。人の多い場所で出口へ一斉に走ると、混雑や転倒を招く可能性があります。従業員は自分の安全を確保したうえで、「頭を守ってください」「棚から離れてください」など、その場で必要な行動を短く伝えます。
屋外では、ブロック塀や自動販売機、看板など、倒れたり落ちたりする可能性がある物に注意します。安全に離れられる範囲で距離を取り、頭を保護しましょう。自動車を運転している場合は、急ブレーキを避け、周囲の安全を確認しながら速度を落とすなど、状況に応じた対応が必要です。
エレベーターに乗っている場合は、各階のボタンを押し、停止した階で降ります。閉じ込められた場合は非常ボタンなどで連絡し、無理に扉を開けたり、外へ脱出したりしないようにします。平時に非常ボタンの位置を確認しておけば、緊急時に探す時間を減らせます。
緊急地震速報は、震源の近くなどでは強い揺れに間に合わないことがあります。速報が鳴らなくても、揺れを感じたら同じように身を守ってください。揺れが収まった後は、火災、建物の損傷、周辺の危険を確認し、必要な避難へ移ります。海辺では津波の危険にも注意が必要です。
普段から、自宅の各部屋や職場で「ここで揺れたら、どこで頭を守るか」を考えてみましょう。報知音を使った訓練で実際に動いておくと、驚いて立ち止まる時間を減らし、最初の安全確保につなげやすくなります。
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ARTICLE 08
家具の固定は避難の備え——けがと逃げ道の閉塞を防ぐ
地震への備えというと、水や食品の備蓄を思い浮かべがちです。しかし、揺れた瞬間に家具が倒れれば、けがをして避難できなくなる可能性があります。家具や家電の転倒・落下・移動を防ぐ対策は、命を守ると同時に、逃げ道を確保するための備えでもあります。
最初に見直したいのは、寝室や長く過ごす場所の家具配置です。ベッドや布団の近くに背の高い家具がないか、座る場所の上に重い物を置いていないか確認しましょう。倒れた家具が人に当たる範囲を考え、置き場所を変えられる物は移動します。家具を減らすことも有効な対策です。
出入口の周辺にも注意が必要です。家具が倒れる方向によっては、扉が開かなくなったり、廊下へ出られなくなったりします。部屋の安全だけでなく、寝室から玄関までの動線を確認してください。通路の収納や床に置いた荷物も、避難の妨げになる可能性があります。
固定には、家具や建物に適した器具を使います。消防庁は、L型金具や支え棒、転倒防止用ベルトなどを使った対策を紹介しています。ただし、器具を付ければ一律に安全になるわけではありません。壁や天井の条件、家具の形状、製品の取付方法を確認し、説明書に従って設置することが大切です。
賃貸住宅などで取り付けに制約がある場合は、管理者に相談し、利用できる対策を検討します。下地の強さや設置方法が分からないまま作業すると、十分な効果が得られない場合があります。必要に応じて専門業者に相談し、固定方法と家具配置を組み合わせて危険を減らしましょう。
収納の中身も見直します。重い本や食器は低い位置へ移し、家具の上には落ちると危険な物を置かないようにします。食器棚などの扉には、開放を防ぐ器具の活用も考えられます。ガラスの飛散対策も含め、家具そのものだけでなく、収納物によるけがを防ぐ視点が必要です。
職場では、キャビネット、複合機、商品棚などが対象になります。キャスター付きの設備も含め、移動や転倒によって通路がふさがれないか確認してください。固定を担当する人、点検の時期、レイアウト変更後の確認方法を決めておくと、対策を継続しやすくなります。
固定した器具は、時間の経過や家具の移動によって緩むことがあります。大掃除や模様替えをしたときは点検の機会にしましょう。まずは寝室と出入口から確認し、危険の大きい物から順に対策を進めることで、無理なく室内の安全性を高められます。
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ARTICLE 09
津波から命を守るために——避難を始める判断と戻らない行動
海の近くで地震が起きたとき、まず確認したいのは津波の危険です。津波は、海面に見える波だけでなく、大量の水が強い力で押し寄せる現象です。岸から波を見てから逃げようとしても、間に合わない可能性があります。避難を始める判断を、平時に理解しておく必要があります。
気象庁は、海辺で強い揺れを感じた場合や、弱くても長くゆっくりした揺れを感じた場合、警報の発表を待たずに避難するよう案内しています。揺れが小さいから津波も小さいとは判断できません。また、日本で揺れを感じなくても、遠い場所の地震によって津波が来る場合があります。
大津波警報や津波警報が発表されたときは、沿岸部や川沿いなどから、直ちに高台や津波避難ビルなどの安全な場所へ避難します。津波注意報の場合も、海の中にいる人はすぐに上がり、海岸から離れます。情報ごとに必要な行動を確認し、海の様子を見に行かないことが大切です。
避難先は、距離だけでなく高さや経路を考えて選びます。普段利用する避難所が、津波に対応した場所とは限りません。自宅、職場、旅行先で、津波浸水想定と避難場所を調べておきましょう。建物へ避難する場合も、指定された施設や利用方法を事前に確認します。
避難中に家へ荷物を取りに戻ったり、海辺にいる家族を探しに行ったりすると、自分も危険にさらされます。家族とは「それぞれが安全な場所へ避難する」「安全を確保してから安否を確認する」という方針を共有しておきます。連絡が取れない場合の方法や、避難後の集合先も決めておきましょう。
津波は繰り返し来ます。最初の波が小さく見えても、後から大きな波が来る可能性があります。潮が引いた、周囲が静かになったという理由で海岸へ戻らないでください。警報・注意報が解除されるまでは安全な場所を離れず、その後も自治体の案内や道路の安全を確認します。
高齢者や障害のある人などの支援は、早い行動が欠かせません。誰が声をかけ、どの経路で移動するかを事前に相談し、必要な時間を確かめておきます。同時に、支援する人自身の避難も確保しなければなりません。危険な場所へ戻ることを前提にしない計画が必要です。
海辺へ出かけたら、到着したときに高い場所へ向かう方向を確認しましょう。ホテルの客室や観光施設でも、津波の避難案内を見ておきます。旅先であっても、最初に逃げる方向を知っていることが、避難を始めるまでの時間を短くします。
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ARTICLE 10
大雨の危険はどこで分かる? キキクルを避難に生かす
大雨の警報が出ても、市町村のどこで危険が高まっているのか、文字の情報だけでは分かりにくいことがあります。自宅の窓から見える雨が弱くても、上流で降った雨によって川が増水する場合もあります。地域の危険度を地図で確認できるのが、気象庁の「キキクル」です。
キキクルは、大雨による土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度の高まりを色分けして示します。雨量だけでなく、地中にたまる水や、地表にたまる水、川へ集まる水の状況などを踏まえた情報です。自宅周辺だけでなく、避難先までの経路に危険がないかを考える際にも役立ちます。
2026年の防災気象情報の見直しでは、浸水キキクルと洪水キキクルを組み合わせた「大雨キキクル」が提供されています。二つの危険度のうち高い方を表示し、大雨による危険の高まりを一つの画面で確認できます。どちらの災害で危険が高まっているかは、個別のキキクルで確かめます。
土砂災害のおそれがある地域では、土砂キキクルも確認しましょう。自宅が斜面の近くにある場合、大雨キキクルだけで判断しないようにします。大きな河川の洪水については、河川の水位情報や洪水予報なども合わせて確認し、地域に合った情報を使うことが大切です。
色の意味は、画面の凡例で確かめます。色が濃くなるのを最後まで待つ使い方は危険です。避難に時間がかかる家族がいる場合は、その準備や移動時間を考え、危険が高まる前に行動する必要があります。すでに災害が切迫している段階では、遠くまで移動できない場合もあります。
ハザードマップとキキクルは、役割が異なります。ハザードマップは、事前に地域で想定される危険を調べる資料です。キキクルは、大雨の際に危険がどこで高まっているかを確認する情報です。平時に地図で自分の災害リスクを知り、雨のときにはキキクルなどで状況を確かめる使い方が効果的です。
市町村の避難情報がまだ出ていない場合でも、自分のいる場所で危険が高まっていれば、早めの避難を考えます。一方、画面の色だけで道路の安全が保証されるわけではありません。現地の状況や自治体の案内も合わせ、浸水した道や斜面の近くへ確認に出かけないようにしましょう。
普段のうちにスマートフォンで自宅と職場を表示し、凡例や切替方法を確かめておきます。家族にも使い方を共有し、通知サービスの利用も検討すると、必要な情報へ早くたどり着けます。画面を開けることに加え、確認後に何をするかまで決めておきましょう。
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ARTICLE 11
土砂災害に備える——危険な場所と避難のタイミング
大雨のとき、山や崖の近くでは、土砂災害にも注意が必要です。土砂災害には、崖が崩れる「がけ崩れ」、斜面の一部が動く「地すべり」、土砂や石が水とともに流れ下る「土石流」などがあります。突然発生し、短い時間で建物や人を巻き込むおそれがあります。
備えの第一歩は、自宅や職場が土砂災害警戒区域などに入っているかを確認することです。自治体のハザードマップや国土交通省のハザードマップポータルサイトを利用できます。区域内であると分かったら、避難先と経路、出発する条件を具体的に決めておきましょう。
区域外でも、斜面や谷の近くでは注意が必要です。地図に表示がないことだけで安全とは判断できません。また、避難先までの道が崖沿いや谷の出口を通る場合、移動中に危険へ近づく可能性があります。目的地とともに、そこまでの経路も確認してください。
土砂災害では、地面のひび割れ、小石の落下、湧き水の変化などの前兆が現れる場合があります。ただし、前兆が確認できるとは限りません。夜間や激しい雨の中では気付けないこともあります。異変を見つけてから逃げる計画ではなく、気象情報や危険度に基づいて早く動くことが大切です。
土砂キキクルなどで自分の地域の危険度を確認し、市町村の避難情報と合わせて判断しましょう。2026年の防災気象情報では「レベル4土砂災害危険警報」などの名称が使われています。危険な場所にいる場合は、情報を聞いた後に様子を見に行かず、安全な場所への移動を優先します。
高齢者や障害のある人など、避難に時間がかかる人は、さらに早い段階で行動する必要があります。着替え、移動の介助、避難先への連絡も含めて所要時間を考えます。夜間に危険が高まる見通しがある場合は、明るいうちに移動することも選択肢に入れましょう。
すでに土砂災害が迫り、外へ移動することが危険な場合は、少しでも危険を減らす行動が必要です。がけ崩れが想定される場合、崖から離れた側のできるだけ上層階へ移るなどの対応が考えられますが、建物ごと被害を受ける可能性もあり、安全を保証するものではありません。早期避難が基本です。
家族で「この家はどの斜面の影響を受けるか」「避難に使う道は安全か」を確認し、自治体の防災情報を受け取れるようにしておきましょう。雨がやんだ直後にも危険が続くことがあるため、自己判断ですぐ戻らず、避難情報や周囲の安全を確かめることが必要です。
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ARTICLE 12
災害時、家族と連絡が取れないときの備え
災害が起きたとき、離れた場所にいる家族へ電話をかけても、すぐにつながるとは限りません。多くの人が一斉に連絡を取ろうとするため、通信が混雑する場合があります。停電や通信設備の被害によって、普段使うサービスが利用できなくなることも考えておく必要があります。
家族で決めたいのは、最初に使う連絡方法と、それが使えない場合の方法です。電話、メッセージ、災害用伝言サービスなどを組み合わせておきます。「連絡が取れるまで、その場所で待つ」という方針では、避難が遅れるおそれがあります。危険がある場合は、自分の安全確保を先に行う約束が大切です。
災害用伝言ダイヤル「171」は、電話番号を手がかりに、安否などの音声伝言を録音・再生するサービスです。災害用伝言板「web171」は、インターネット上で電話番号を手がかりに文字の伝言を登録・確認できます。運用状況や利用条件は、提供事業者の案内で確認しましょう。
利用するときに迷わないよう、家族でどの電話番号を使うかを事前に決めておきます。各自が別の番号で登録すると、伝言を見つけにくくなる場合があります。番号はスマートフォンだけでなく、紙の連絡カードにも書いておくと、端末の故障や電池切れに備えられます。
伝言の内容は、安否、現在地、次の行動を短くまとめます。例えば「けがはありません。○○へ避難しました。しばらくここにいます」といった情報です。移動する場合は、可能であれば内容を更新します。状況が変わった後も古い情報だけが残ると、家族が行き違うことがあります。
サービスの名前を知るだけでは、緊急時に使えるとは限りません。提供事業者が設ける体験利用の機会を使い、家族で録音や確認を試してみましょう。スマートフォンが得意でない人も含め、それぞれが使いやすい方法を選ぶことが大切です。体験利用の日程は事業者の最新情報で確認します。
通信が使えない場合に備え、災害に対応した避難先や、落ち着いてから合流する場所も決めておきます。ただし、どんな災害でも同じ場所に集合する計画には注意が必要です。洪水、津波、火災など、危険の種類によって安全な場所は異なります。
外出する家族は、学校や職場の災害時の対応も共有しておきましょう。迎えに行くことで互いに危険へ近づくことがないよう、引き渡し方法や待機方針を確認します。モバイルバッテリーや紙の連絡先も準備し、「つながらなくても、それぞれ安全を確保できる」状態を目指しましょう。
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ARTICLE 13
防災用品は何をそろえる? 持ち出す物と家に備える物
防災用品を買いそろえる前に、「避難するときに持ち出す物」と「自宅などで生活を続けるために備える物」を分けて考えてみましょう。目的が異なるため、必要な量や置き場所も変わります。一つの大きな袋に全部詰めると、重くて運べないことがあります。
非常持出品は、安全な場所へ移動する際に携行する物です。飲み水や少量の食品、ライト、携帯電話の充電用品、必要な薬、衛生用品、連絡先など、自分に必要な物を選びます。持出袋は背負って歩ける重さにし、両手を使いやすくしておくことが大切です。
備蓄品は、停電や断水、物流の停止などに備えた生活用品です。水や食品に加え、携帯トイレ、照明、電源、衛生用品なども考えます。トイレが使えないと、生活だけでなく健康にも影響します。食品の量に目が向きがちですが、排泄への備えも早い段階で確認しましょう。
農林水産省は、食品の家庭備蓄として、最低3日分から1週間分を人数分用意することを紹介しています。地域の条件によっては、さらに多くの備えが必要になる場合もあります。家族の人数と普段食べる量を基に計算し、調理できない場合にも食べられる物を含めて準備します。
続けやすい方法が、ローリングストックです。普段の食品を少し多めに買い、古い物から使い、使った分を補充します。食べ慣れた食品なら、災害時にも受け入れやすくなります。水や熱源が必要な食品に偏らないよう、実際の調理方法も確かめてください。
家族によって必要な用品は異なります。乳幼児にはミルクや離乳食、高齢者には食べやすい食品、アレルギーのある人には対応食品が必要です。眼鏡、補聴器の電池、服薬情報なども、生活を支える重要な物です。薬の予備については、処方する医師や薬剤師に相談しましょう。
置き場所にも工夫が必要です。家具が倒れたときに取り出せなくなる場所は避けます。水害で上階にとどまる計画があるなら、必要な物を上階にも用意します。備蓄を一か所だけに集めず、家族が場所を知っている状態にしておけば、取り出しやすくなります。
そろえた用品は、使って点検してください。ライトが点くか、充電できるか、持出袋を背負って歩けるかを確認します。子どもの成長や季節に応じて中身を見直すことも必要です。まずは水、食品、トイレ、照明から始め、暮らしに合った備えを少しずつ整えていきましょう。
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ARTICLE 14
避難誘導を担う人の役割——平時の準備が命を守る
避難誘導というと、災害が起きたときに大きな声で出口へ案内する仕事を想像するかもしれません。しかし、円滑な誘導を支えるのは、災害が起こる前の準備です。利用者の特徴、建物の構造、危険の種類を知り、使える経路と役割を整えておくことが欠かせません。
講習用テキストでは、避難誘導を担う人の役割を、平時の予防と発災時の応急対応に分けて説明しています。平時には、避難計画の作成、経路と避難先の確認、用具の整備、訓練の計画などを行います。現場を歩き、計画どおりに行動できるかを確かめることが重要です。
利用者についても把握が必要です。自力で階段を下りにくい人、日本語の放送を理解しにくい人、音声情報を受け取りにくい人など、さまざまな事情を想定します。特定の人が来てから対応を考えるだけでなく、情報の伝え方と移動支援の選択肢を事前に用意しておきます。
役割分担では、通報、館内連絡、誘導、負傷者対応などを整理します。一人の担当者にすべてを集中させると、その人が不在だった場合や、けがをした場合に対応が止まります。少ない人数の勤務時間帯も想定し、代役や応援の呼び方を決めておく必要があります。
災害発生時は、自分の安全を確保したうえで、被害や経路の状況を共有します。火災が起きた場所、煙が入っている通路、使用できない設備など、判断に必要な情報を具体的に伝えます。確認のために危険な場所へ入ったり、情報をそろえることに時間をかけすぎたりしないようにします。
誘導では、利用者が次に何をすればよいかを明確にします。「落ち着いてください」だけでは、行き先が分かりません。安全が確認できた方向を示し、短い言葉と身振りを組み合わせます。途中で経路の状況が変わったら、現場と指揮する人が連絡し、案内を修正する必要があります。
避難後も、人数の確認、負傷者の把握、消防への情報提供などの役割があります。ただし、逃げ遅れの確認や救助のために、煙や倒壊の危険がある場所へ無理に戻ってはいけません。取り残された可能性がある人の場所や人数を、専門機関へ正確に伝えることが大切です。
なお、講習用テキストの資格名称と、消防法などに基づく防火管理者等の制度は、分けて理解する必要があります。施設では法令上の体制と消防計画を確認し、その中で担当者の役割を明確にしましょう。訓練後の気付きを計画へ反映することで、準備の実効性を高められます。
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ARTICLE 15
その避難経路、本当に使える? 店舗・職場の安全点検
避難経路図に線が引かれていても、実際にその道を通れるとは限りません。非常口の前に荷物がある、階段に商品を仮置きしている、案内表示が見えにくい。こうした日常の小さな変化が、災害時には避難を妨げる原因になります。経路は、図面と現場の両方で確認する必要があります。
まず、利用者が普段いる場所から、避難先まで歩いて点検します。出口へ向かう途中に障害物はないか、扉を安全に開けられるか、途中で迷いやすい場所はないかを確認しましょう。非常口を出た後の通路や敷地の出口も含め、目的地までつながっているかを確かめます。
通路の幅にも注意が必要です。一人なら通れても、大勢が同時に移動すると滞留が起きる場合があります。車いすなどを使う人が通れるか、段差や急な曲がり角で移動しにくくならないかも確認します。利用者の人数や特性に合わせた点検が必要です。
誘導灯や案内表示は、設置されているだけでは十分ではありません。商品棚や装飾で隠れていないか、初めて来た人にも方向が分かるかを見ます。従業員にとって分かりやすい経路でも、来訪者には分かりにくい場合があります。別の部署の人などに見てもらうと、思い込みに気付きやすくなります。
防火戸や防火シャッターの周辺には、作動や閉鎖を妨げる物を置かないようにします。これらは火や煙の広がりを抑える設備です。便利だからという理由で固定したり、閉まる場所に荷物を置いたりすると、本来の働きが損なわれます。設備の取扱いは、施設の管理者や専門業者に確認してください。
通常の経路が使えない場合も想定します。火災や煙、落下物などで一つの通路がふさがれたとき、別の経路へ案内できるでしょうか。建物の構造によっては選択肢が限られるため、勝手に代替経路を決めず、消防計画や消防機関の助言を踏まえて準備します。
点検は定期的に行うだけでなく、売場の変更、イベントの設営、荷物の搬入後にも必要です。危険を見つけたら、写真や記録で共有し、誰がいつまでに直すかを決めます。「気を付けましょう」という連絡だけで終わらせず、現場で改善されたことまで確認しましょう。
開店前や始業前の短い確認に、非常口、通路、階段の点検を組み込む方法もあります。緊急時に使う場所を、日常の荷物置場にしないルールが大切です。避難経路をいつでも使える状態に保つことは、施設全体で継続して取り組む防災活動です。
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ARTICLE 16
「落ち着いて」だけでは伝わらない——避難を促す声かけ
災害時、周囲の人へ「落ち着いてください」と呼びかけても、それだけでは避難につながらないことがあります。不安な状況で知りたいのは、何が起きているか、どこへ行けばよいか、今何をすればよいかです。避難を促す声かけには、具体的な行動の情報が必要です。
基本は、短い言葉で、重要なことから伝えることです。例えば「奥の通路は使えません。こちらの階段から下へ移動してください」と案内すれば、避ける場所と進む方向が分かります。一度に多くの説明をすると理解しにくくなるため、移動に必要な情報を優先します。
危険の場所も具体的に伝えます。「向こうが危ない」では、聞いた人によって違う方向を想像する可能性があります。「2階の厨房付近で火災が起きています」など、確認できた内容を分かりやすく案内します。ただし、推測を事実のように放送してはいけません。未確認の情報は、その状態を明確にします。
言葉とともに、指し示す動作や案内表示を使うことも大切です。音声が聞こえにくい人や、日本語を十分に理解できない人にも、方向や行動が伝わりやすくなります。誘導する人は利用者から見える位置に立ち、通路をふさいだり、人と接触したりしないようにします。
施設内では、館内放送と現場の声かけをそろえる必要があります。放送では待機を求め、現場では移動を求めていると、利用者が混乱します。災害の状況と使える経路を共有し、指示が変わった場合は、どの区域の案内が変わるのかまで確認しましょう。
安心させようとして「絶対に大丈夫」と言い切ることにも注意が必要です。安全を確認できていないのに断定すると、危険な場所に人をとどめるおそれがあります。「係員が案内します」「この方向へ進んでください」など、確認した事実と具体的な支援を伝える方が適切です。
反応がない人を見たときは、指示に従わない人と決め付けないようにします。聞こえていない、意味が分からない、動くことが難しいなどの事情が考えられます。「手伝いが必要ですか」と短く確認し、筆談や個別の案内につなげます。本人の状況に合った伝え方を選ぶことが大切です。
平時の訓練では、担当者が実際に案内文を声に出してみましょう。長すぎないか、方向が分かるか、騒音の中でも聞き取れるかを確認します。定型文を用意する際は、災害の場所や避難方向を変更できるようにし、現場の状況に合わせて使える形に整えておきます。
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ARTICLE 17
大勢の人を安全に誘導するには? 出口への集中を防ぐ備え
商業施設や劇場などで災害が起きると、多くの人が同時に移動します。一つの出口へ人が集中した場合、通路や階段で動けなくなり、転倒や圧迫などの危険が生じます。安全な避難には、出口の数だけでなく、人がどのように流れるかを考えた準備が必要です。
人は緊急時に、入ってきた入口や、普段使う経路へ向かうことがあります。また、周囲の人の動きにつられて、同じ方向へ進む場合もあります。講習用テキストでは、こうした行動の特徴を説明しています。施設側は、利用者が自然に動く方向を想定し、別の経路も分かるように案内する必要があります。
平時には、各区域から使える出口、通路の幅、階段の位置、途中で流れが合流する場所を確認します。出口が複数あっても、途中の狭い通路に全員が集まる構造なら、混雑が起きる可能性があります。収容人数や利用形態も踏まえ、施設全体の避難計画として検討しましょう。
現場の誘導では、安全が確認できた複数の経路へ案内することが考えられます。ただし、人を分散させることだけを目的に、火災や煙のある方向へ誘導してはいけません。使える出口と危険な区域の情報を共有し、その時点の状況に合った案内を行います。
合流する場所や曲がり角などには、状況を見て連絡できる担当者を配置します。出口側が詰まっているのに、後方から移動を促し続けると、圧力が高まるおそれがあります。進行状況を確認し、案内の変更や流れの調整が必要かを、現場と指揮する人で判断できる体制が重要です。
利用者への案内は、短く具体的にします。「押さずに進んでください」「こちらの出口へ進んでください」など、次の動作が分かる言葉を使います。複数の担当者が違う方向を指示すると混乱するため、区域ごとの担当と連絡方法を明確にしておきます。
避難後の集合場所も、人の流れに関係します。出口のすぐ外に立ち止まると、後続の人が出られなくなる可能性があります。道路や消防活動の場所をふさがないよう、施設の計画に基づいて安全な場所まで案内します。集合場所の収容人数も確認しておく必要があります。
訓練では、普段と違う出口を使う場合や、一つの経路が使えない場合を想定し、案内の分かりやすさを確認します。ただし、実際に危険な密集を再現する必要はありません。図面を使った検討や少人数の確認も活用し、混雑が起きる前に問題を見つけることが大切です。
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ARTICLE 18
避難訓練を「いつもの行事」で終わらせない工夫
毎年同じ時間に、同じ出口から、同じ集合場所へ向かう。こうした避難訓練でも基本の確認はできますが、実際の災害では条件が変わります。担当者が不在だったり、普段の通路が使えなかったりするかもしれません。訓練を役立てるには、確かめたい課題を具体的に決めることが大切です。
最初に、訓練の目的を一つか二つに絞ります。「来訪者にも案内が伝わるか」「担当者が少ない時間帯に対応できるか」「一つの階段が使えないときに連絡できるか」などです。目的がはっきりすれば、何を観察し、何を改善するかも決めやすくなります。
想定する災害は、地域や建物の危険に合わせます。地震、火災、水害では、最初に取る行動や使える経路が異なります。例えば地震なら、揺れの間の安全確保から、揺れが収まった後の連絡へつなげます。火災なら、通報、初期消火、避難誘導の連携を確認します。
利用者の多様な事情も取り入れましょう。館内放送を聞き取れない人、階段を使いにくい人、日本語の案内を理解しにくい人への対応を考えます。本人や関係者に協力を求める場合は、負担や安全に配慮し、参加方法を事前に相談することが必要です。
評価は、避難完了までの時間だけで決めないようにします。速さを優先しすぎると、確認や必要な支援を省いてしまう場合があります。情報が伝わったか、人数を確認できたか、危険な場所へ担当者が入らなかったかなど、過程を観察することが重要です。
訓練中の事故防止も欠かせません。危険な密集や、実際の煙による環境を安易に作ることは避けます。避難器具を使う訓練は、消防機関や消防設備士などの立会いの下で行います。安全を確保しながら、机上訓練や部分的な実技を組み合わせる方法もあります。
終了後は、参加者から具体的な意見を集めます。「放送の言葉が長かった」「集合場所が分からなかった」「連絡担当が誰か不明だった」など、事実として記録しましょう。改善する担当者と期限を決め、次の訓練までに直したことを確認します。
大規模な訓練だけでなく、始業前の数分で非常口を確認する、短い案内文を練習する、電話が使えない場合の連絡を話し合うことも役立ちます。訓練を一度のイベントで終わらせず、見つかった課題を日常の管理や消防計画へ反映することで、実際の対応を改善できます。
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ARTICLE 19
高齢者の避難を支えるために——早めの行動と個別避難計画
災害時の避難に必要な時間は、人によって異なります。歩く速さだけでなく、着替え、服薬の準備、介助、移動手段の確保にも時間がかかることがあります。高齢者の避難を支えるには、発災時に声をかけるだけでなく、本人の暮らしに合った準備を進めることが大切です。
まず、本人がどのような支援を必要としているかを確認します。歩行が難しい、情報を受け取りにくい、危険を判断する際に説明が必要など、事情はさまざまです。年齢だけで一律に扱わず、「どのような方法なら移動しやすいか」「何を持って行く必要があるか」を本人と話し合います。
避難行動要支援者の一人ひとりについて、避難先や支援者などを整理するのが個別避難計画です。2021年の災害対策基本法の改正により、市町村による作成が努力義務となりました。対象や作成の進め方は自治体で異なるため、まず地域の窓口へ相談しましょう。
計画には、避難を始める条件、連絡方法、支援する人、経路、必要な物などを具体的に記します。主な支援者が不在の場合や、普段の道が使えない場合も考えておきます。本人の同意や個人情報への配慮を踏まえ、必要な関係者が計画を共有できる状態にすることが重要です。
風水害では、危険な場所にいる高齢者などは、警戒レベル3「高齢者等避難」の段階で避難します。支援する人も、その時点で一緒に行動できるよう準備します。移動に長い時間が必要な場合は、さらに早い行動を検討するなど、地域の危険と本人の状況に合わせる必要があります。
避難先では、トイレ、段差、休息場所、医療上の対応なども確認します。到着できることだけでなく、そこで安全に過ごせるかが大切です。薬の情報、補助具、眼鏡など、生活に必要な物も準備します。福祉避難所の利用や受け入れ方法については、自治体と事前に確認してください。
支援者自身と、その家族の安全も優先されます。計画があっても、危険な場所へ入って救出することを求めるものではありません。支援を実施できず、本人が救助を必要とする場合は、消防機関などへ場所や状況を伝えます。一人の善意だけに頼らない仕組みを考えることが必要です。
計画を作った後は、可能な範囲で本人と支援者が一緒に経路を確認します。予想以上に時間がかかる、車いすが通れないなどの課題を見つけたら修正しましょう。体調や介護の状況は変化するため、日頃の関わりの中で内容を見直していくことが大切です。
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ARTICLE 20
障害のある人への避難支援——まず本人に確認したいこと
障害のある人を見かけたとき、「すぐに手を引いて避難させよう」と考えるかもしれません。しかし、突然体や補助具に触れると、驚かせたり、かえって動きにくくしたりする場合があります。避難支援の出発点は、本人に声をかけ、必要な支援と方法を確認することです。
声をかける際は、自分が誰で、何をしようとしているかを短く伝えます。「施設の係員です。こちらへ避難します。どのようなお手伝いが必要ですか」といった案内です。見た目だけでは分からない障害や体調の事情もあるため、支援の必要性を決め付けないようにします。
視覚に障害のある人には、周囲の状況や進む方向を言葉で伝えます。本人に適した方法を確認し、段差や階段の前で、その形状や上り下りを具体的に説明します。白杖や盲導犬を勝手に引いたり、後ろから押したりせず、本人が状況を理解して動けるよう支援します。
聴覚に障害のある人には、音声だけの放送では情報が届かない場合があります。文字、図、身振りなどを組み合わせ、何が起きているか、どちらへ移動するかを伝えます。手話、筆談、スマートフォンへの文字入力など、本人が理解しやすい方法を確認することが大切です。
車いすを使う人には、経路や段差の状況を説明し、移動を始める前に声をかけます。車いすの構造や本人の状態によって、適切な介助方法は異なります。階段での搬送を、人数さえ集めればできると考えてはいけません。施設の避難計画、適切な器具、訓練を踏まえた対応が必要です。
情報の理解や状況の整理に支援が必要な人には、一度に多くのことを伝えず、短い言葉で一つずつ説明します。「あちら」「適宜」といった曖昧な表現を避け、行き先や行動を具体的に示しましょう。急な予定変更や大きな音で不安が強くなる人もいるため、本人の反応を見ながら対応します。
内部障害など、外見から分かりにくい事情がある人もいます。歩けるから支援不要とは限りません。息苦しさ、医療機器の使用、服薬などの事情を踏まえ、必要な場合は専門職や消防へつなぎます。医療上の情報を、周囲にむやみに広めない配慮も必要です。
施設では、音声と文字の案内、利用できる経路、個別対応の担当者を平時から整えておきます。本人や関係者と確認できる機会があれば、実際の使いやすさを聞き、計画を改善しましょう。支援する人の安全も確保しながら、本人の選択と理解を尊重する対応が求められます。
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ARTICLE 21
外国人にも伝わる避難案内——やさしい日本語と図記号の活用
災害時に日本語の放送が流れても、その内容をすべての利用者が理解できるとは限りません。日本での生活が長い人でも、災害特有の用語には慣れていない場合があります。外国人への避難案内では、多言語対応とともに、短く分かりやすい「やさしい日本語」が役立ちます。
やさしい日本語では、難しい言葉を避け、一つの文で伝える内容を絞ります。例えば「速やかに退避してください」より、「今すぐ、ここから離れてください」の方が意味を捉えやすくなります。専門用語や省略語を使わず、行動と方向を具体的に示すことが大切です。
案内には、危険がある場所、行き先、取るべき行動を入れます。「2階で火事です。こちらの階段から、外へ出てください」といった形です。「あちらへお願いします」だけでは、方向や目的が分かりません。指さしや身振りを組み合わせ、進む場所を見て確認できるようにします。
図記号も有効です。非常口、階段、使用できない設備などを、文字だけでなく視覚的に示します。ただし、図を置けば必ず理解されるわけではありません。矢印の向きが正しいか、案内が途中で途切れていないか、実際の出口と対応しているかを、現場で確認する必要があります。
多言語の案内文は、平時に用意しておきましょう。利用者の言語を踏まえ、火災、地震、避難などで使う短い文を準備します。翻訳機器を利用する場合も、停電、通信障害、騒音などで使えない可能性があります。文字を書いたカードや案内板も用意しておくと対応の幅が広がります。
緊急時には、長い説明や翻訳を待つことで避難が遅れないようにします。まず必要な行動を伝え、安全な場所への移動を優先します。その後、詳しい状況や今後の予定を説明します。日本語を理解できる利用者同士の協力も考えられますが、施設側の案内責任を任せきりにしないことが大切です。
外国人をひとまとめに扱うことにも注意が必要です。理解できる言語、文字の読みやすさ、災害の経験などは人によって異なります。英語なら全員に伝わるとは限りません。相手の反応を見て、分かったかどうかを確認し、必要な場合は個別の対応につなげます。
訓練では、案内文を読み上げるだけでなく、実際に初めて来た人が行動できるかを確かめましょう。やさしい日本語による案内は、外国人だけでなく、子どもや高齢者、緊張している人にも役立ちます。普段の施設案内から言葉を見直すことで、災害時にも使いやすくなります。
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ARTICLE 22
火災では煙にも注意——安全に避難するための基礎知識
火災で危険なのは、炎だけではありません。煙には一酸化炭素などの有害なガスが含まれ、吸い込むことで意識を失ったり、動けなくなったりするおそれがあります。炎が見えない場所でも、煙が広がっていれば危険です。火災時は、煙に近づかない避難を考えることが大切です。
煙は高い所からたまり、量が増えると低い所にも広がります。階段や縦に通じる空間を通って、別の階へ広がることもあります。そのため、火元から離れているという理由だけで安全とは判断できません。避難経路に煙が入っていないか、施設の情報や目の前の状況を確認します。
煙がある場所から逃げる際は、できるだけ姿勢を低くし、煙を吸い込まないようにします。手元にあるハンカチなどで口や鼻を覆うことは補助的な対応になりますが、有毒ガスを防げる装備ではありません。「布を当てれば通れる」と考えて、煙の充満した通路へ入ってはいけません。
避難を始めるときは、服装や持ち物を整えるために時間を使わないようにします。貴重品や靴を探している間に、経路の状況が変わる可能性があります。警報を聞いたら施設の案内を確認し、火災と分かった場合は、煙に巻き込まれる前に行動する必要があります。
火災時には、エレベーターを避難手段として使わないことが基本です。停電、火災階での停止、煙の流入などの危険があるためです。施設の消防計画に沿って、利用できる階段などへ向かいます。階段にも煙がある場合は無理に進まず、別の安全な経路や計画された対応を確認します。
避難の際、安全にできる範囲で扉を閉めることは、火や煙の広がりを抑える助けになります。ただし、閉鎖作業のために避難を遅らせたり、防火設備を無理に操作したりしないようにします。日頃から防火戸の周囲に物を置かず、正常に働く状態を保つことが重要です。
外へ避難できない場合は、煙が入りにくい場所へ退避するなど、その場の条件に応じた対応が必要です。119番に通報し、建物名、階、部屋、取り残された人数などを伝えます。窓から無理に飛び降りたり、煙の中へ戻ったりせず、消防の指示を受けて行動してください。
平時には、よく利用する建物の非常口と複数の経路を確認しましょう。自宅では住宅用火災警報器の維持管理も、早く火災に気付くための備えになります。火災を早く知り、煙が広がる前に避難できるよう、発見から移動までの行動を準備しておくことが大切です。
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ARTICLE 23
初期消火はどこまで? 消火器の使い方と避難の判断
火災を小さいうちに消し止める初期消火は、被害の拡大を抑えるために重要です。しかし、消火を続けることで逃げ遅れてはいけません。火を見つけたら、周囲へ知らせ、119番通報や避難につなげながら、安全に行える範囲で消火することが基本です。
最初に大きな声で火災を知らせます。周囲に人がいれば、通報や避難の案内を具体的に依頼しましょう。「誰かお願いします」では役割が決まらない場合があります。「あなたは119番に電話してください」など、担当する人と行動を明確にします。一人の場合は、自分の避難を確保しながら対応します。
消火器を使う前には、逃げ道を確認します。火元と出口の間に立ち、炎や煙によって退路を失わない位置から使用することが大切です。煙で息苦しい、熱が強い、出口まで安全に戻れないなどの状況では、無理に消火を始めないようにします。
一般的な消火器の基本操作は、安全ピンを抜き、ホースを火元へ向け、レバーを握る流れです。炎の先端だけでなく、燃えている物へ消火剤を向けます。ただし、消火器の種類や構造で操作が異なる場合があるため、普段のうちに本体の表示を確認してください。
消防庁は、一般に初期消火が可能なのは、火が天井に回るまでと説明しています。ただし、「天井に届くまでは必ず安全」という意味ではありません。煙や熱、火の広がり、消火器の能力などによって、もっと早く避難が必要になる場合があります。消えないときは固執せず、退避します。
火災の種類に合った消火器を使うことも重要です。住宅用消火器などには、対応する火災が表示されています。天ぷら油の火災に水をかけると、炎が急激に広がる危険があります。慣れない方法をその場で試すより、適応する器具を使い、安全を確保できなければ避難してください。
火が消えたように見えても、再び燃えたり、見えない場所でくすぶっていたりする場合があります。自己判断で通報を取り消したり、片付けを始めたりせず、消防へ状況を伝えます。避難後に荷物を取りに戻ることも避け、火災が起きた場所や取り残された人の情報を知らせます。
消火器は、いざというときに取り出せる場所へ置き、使用期限や状態を確認しておきましょう。職場では場所の周知と操作訓練が必要です。訓練用の器具で使い方を体験しておくと、実際の操作を理解しやすくなります。消火の技術とともに、やめて逃げる判断も身に付けることが大切です。
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ARTICLE 24
119番通報で何を伝える? 救助につながる情報の整理
火災や急病、けがで119番に電話するとき、焦って何から話せばよいか分からなくなることがあります。大切なのは、すべてを完璧に説明しようとすることではなく、指令員の質問に答え、必要な情報を順に伝えることです。状況を調べ終えるまで、通報を遅らせないようにしましょう。
特に重要なのが、消防車や救急車に来てほしい場所です。住所、建物名、階、部屋番号などを伝えます。大きな施設では、どの入口から入ればよいかも役立つ情報です。住所が分からない場合は、交差点名や近くの大きな建物など、目印になる物を知らせてください。
携帯電話の位置情報が利用される場合もありますが、それだけで正確な場所が伝わるとは限りません。自宅や職場の住所は、電話の近くや連絡カードに記しておくと安心です。施設では、来訪者でも建物名や所在地を確認できるよう、受付などに表示しておく方法もあります。
火災の場合は、燃えている場所、何が燃えているか、煙の状況、逃げ遅れた人の有無などを、分かる範囲で伝えます。確認のために煙のある場所へ入る必要はありません。「分からない」と答えることも大切です。推測で人数や場所を断定すると、消防活動に影響する可能性があります。
救急の場合は、誰が、どのような状態なのかを伝えます。反応があるか、普段どおりの呼吸があるか、大きな出血があるかなどが重要です。年齢や持病が分からなくても通報できます。必要な応急手当について、指令員から説明がある場合は、内容を聞いて行動します。
周囲に協力者がいれば、通報、AEDの手配、応急手当、救急車の案内などを分担します。通報する人は傷病者の様子を伝えられる位置にいると、指示を受けやすくなります。可能であれば電話をスピーカーにし、手当をしながら指令員とやり取りする方法もあります。
電話を終えた後も、消防から場所の確認などで連絡が来る場合があります。使用した電話で連絡を受けられるようにしておきましょう。救急車を待つ間は、傷病者の状態の変化や、行った手当を記録できれば、到着した救急隊へ引き継ぐ情報になります。
携帯電話がつながらない場合は、公衆電話や近くの人・店舗への依頼など、別の方法を考えます。消防庁も、通信障害時には周囲へ助けを求めることなどを案内しています。平時の訓練では実際に119番へ試し電話をせず、模擬通報で住所や状況を説明する練習を行いましょう。
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ARTICLE 25
倒れている人を見つけたら——安全確認・119番通報・AED
倒れている人を見つけたとき、助けたいと思ってすぐ近づくかもしれません。しかし、火災、交通、落下物などの危険が残っている場合があります。最初に周囲を見て、自分と傷病者の安全を確認します。救助する人まで被害を受けると、救命につながる行動が続けられなくなります。
安全に近づける場合は、肩を優しくたたきながら声をかけ、反応を確認します。反応がない、または判断できない場合は、大きな声で助けを呼び、119番通報とAEDの手配を依頼します。「あなたは通報を」「あなたはAEDを持ってきてください」と具体的に頼むと、役割が決まりやすくなります。
協力者がいない場合は、携帯電話などで119番へ通報し、指令員の説明を受けます。電話をスピーカーにできれば、手を使いながら話を聞けます。呼吸は、胸や腹の動きを見て、普段どおりかを10秒以内で確認します。しゃくり上げるような途切れ途切れの呼吸は、正常な呼吸とは限りません。
普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は、胸骨圧迫を始めます。成人では、胸の真ん中を、胸が約5センチ沈む強さで、1分間に100〜120回の速さで圧迫します。圧迫の間には胸が元の位置に戻るようにし、できるだけ中断を少なくします。指令員の指示も受けながら続けてください。
人工呼吸の訓練を受け、実施する意思と技術がある場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を組み合わせます。実施できない、ためらわれる場合でも、胸骨圧迫を続けることが重要です。小児や乳児では方法に違いがあるため、講習などで学び、現場では指令員の指示を受けましょう。
AEDが届いたら、電源を入れ、音声案内や表示に従って操作します。胸に電極パッドを貼り、心電図の解析や電気ショックの際には、誰も傷病者に触れないよう確認します。AEDには操作方法の異なる機種もあるため、機器の案内をよく聞くことが大切です。
「ショックは不要です」という案内があっても、それだけで回復したと判断してはいけません。音声案内に従って胸骨圧迫などを再開します。救急隊へ引き継ぐまで、または普段どおりの呼吸や明らかな反応が戻るまで、必要な手当を続けます。複数人がいれば、圧迫の交代も協力して行います。
普段から、職場や駅、公共施設のAEDの場所を確認しておきましょう。設置場所だけでなく、利用できる時間も重要です。消防機関の救命講習で実技を学び、定期的に復習しておくと、緊急時に行動しやすくなります。安全確認、通報、手当、AEDを、周囲の人とつないでいくことが命を支えます。
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